「中東の海で、また船が攻撃された」。
そんなニュースが続いた週末、湾岸の株式市場は上昇して取引を終えました。
普通に考えれば、逆のはずです。
情勢が悪くなれば、お金は逃げて、株は下がる。
その直感が、いまの湾岸では単純に当てはまっていません。
結論から言います。
市場は情勢を「楽観」しているのではありません。
情勢とは別のもの、つまり足元で動き続けている商売の数字を見ています。
本記事は7月27日の「陰りは出たのか」に続く、定点観測の続報です。
今回も煽らず、楽観にも逃げず、公表されている数字だけで確かめます。
何が起きているか――海峡は止まり、交渉は期限切れ
まず、悪いニュースの方を正確に見ます。
2月に始まった紛争の影響で、原油の大動脈であるホルムズ海峡の通行は、いまも大きく乱れています。
The National紙によると、8月中旬の金曜日に海峡を通過できた船は「わずか数隻」でした。
攻撃も続いています。
アブダビ国営石油会社(ADNOC)の船は、8月だけで複数回攻撃を受け、紛争開始からの累計は15隻にのぼるとAl Jazeeraが伝えました。
UAE政府はこれを「海賊行為」「世界のエネルギー供給への直接の脅威」と強く非難しています。
外交も止まりました。
6月に署名された米国とイランの枠組み合意は、60日以内の決着を目指していましたが、その期限が8月中旬に切れました。
停戦そのものは保たれているものの、イラン側は「制裁の緩和などが実現するまで海峡は再開しない」という立場を崩していません。
出典: The National(2026年8月16日) / Al Jazeera(2026年8月14日) / The National(米イラン合意期限)
それでも、市場の数字は崩れていない
次に、市場の方を見ます。
8月16日の日曜日、サウジアラビアの株価指数は0.9%上昇して10,920で引けました。
カタールは0.2%、オマーンは0.3%の上昇。
大きく売られた市場は、湾岸にひとつもありませんでした。
支えのひとつは、原油の値段です。
海峡の混乱で供給への不安が強まり、国際的な指標となる北海ブレント原油は1バレル88.52ドルまで上がっています。
産油国にとって油の値上がりは、国と主力企業の収入が増えるという意味を持ちます。
💡 ここまでのポイント
「情勢悪化=株安」は、産油国では単純に成り立ちません。緊張で原油が高くなると、産油国の収入はむしろ増える面があるからです。悪いニュースと市場の強さが同居しているのは、矛盾ではなくこの構造によるものです。
ではドバイは?――「上昇」ではなく「持ちこたえ」
ここが今回、一番正確に伝えたいところです。
実は、日曜に上がった市場にドバイは含まれていません。
ドバイの取引所は月曜から金曜に開いており、日曜は休場だからです。
そのドバイの株価指数を直近で見ると、8月17日の終値は5,856。
この1年間では4.45%のマイナスで、直近4週間もわずかに下げています。
一方で、紛争が激しかった時期からは大きく戻しました。
停戦が入った6月には1か月で3.4%上昇し、湾岸の主要市場でいちばん高い伸びを記録しています。
つまり正確な姿はこうです。
「上がり続けている」のではなく、「戦時下で一度沈み、停戦後に戻し、いまは持ちこたえている」。
私たちが確認した範囲では、これが数字で言える範囲のすべてです。
⚠️ 注意点
この回復相場について、中東の経済メディアからは「和平の実現を先に織り込んだ相場だ」という分析も出ています。織り込んだ和平が崩れれば、株価の前提も崩れます。「底堅い」は「安全」の証明ではありません。
出典: Trading Economics(DFM総合指数・2026年8月17日) / Khaleej Times(2026年6月の市場月報) / Enterprise AM(2026年7月1日)
なぜ崩れないのか――投資家が見ているのは「足元の商売」
では、なぜ持ちこたえられているのか。
理由はひとつに絞れます。情勢がどうであれ、目の前の商売の数字がまだ動いているからです。
金融会社センチュリー・ファイナンシャルの投資責任者は、6月の相場をこう説明しています。
「際立っていたのは消費関連株の主導だ。内需、観光、人口増加が続くことに、投資家がお金を置いた」。
裏付けもあります。
UAEの石油以外の景気を測る指数(PMI)は52.6と、好調・不調の境目である50を上回りました。
不動産も動き続けています。
ドバイ土地局のデータ分析によると、7月の不動産販売は13,930件・約348.8億ディルハム(約1.5兆円)。
金額は前月より6.9%増でした。
戦争のニュースの横で、店には客が入り、家は売れている。
株価が映しているのは情勢の見通しではなく、この足元の数字です。
出典: Khaleej Times(2026年6月の市場月報) / Al Masdar Al Aqaari(ドバイ土地局データ分析・2026年7月分)
今のところ言えること、まだ言えないこと
最後に、編集部の立場をはっきり書きます。
言えるのは、ここまでです。
湾岸市場の底堅さは、数字で確かめられる事実です。
ただしその土台は「足元の商売が動いていること」と「和平への期待」であり、情勢そのものは7月より良くなっていません。
7月27日の記事で、専門家の「海峡の通行に長期的な支障が出れば、前提が変わりうる」という留保を紹介しました。
その海峡の支障は、いま現実に2か月を超えつつあります。
底堅さの前提が試されている最中だ、というのが私たちの見立てです。
だから、もし「戦争でも上がっている。今が買い時だ」という誘い文句を聞いたら、一度立ち止まってください。
上がっているのは主に産油国の収入と一部の消費関連であり、ドバイの指数はこの1年でむしろ小幅マイナスです。
その説明をしない勧誘は、数字の半分しか見せていません。
まだ言えないのは、持ちこたえがいつまで続くかです。
合意の期限が切れた後の外交がどう動くか、私たちも定点観測を続けます。
よくある質問
Q1. 情勢が悪いのに、なぜ湾岸の株は上がったのですか?
海峡の混乱で原油価格が上がり、産油国の収入増につながるという構造があるためです。8月16日はサウジアラビアが0.9%上昇するなど主要市場が軒並み小幅高でした。ただしこれは「情勢を楽観している」という意味ではありません。
Q2. ドバイの株も上がっているのですか?
直近では横ばい圏です。8月17日の終値は5,856で、この1年では4.45%のマイナス。一方、停戦が入った6月には1か月で3.4%上昇し、湾岸で最も高い伸びでした。「上昇が続いている」のではなく「戻して持ちこたえている」が正確です。
Q3. ドバイの不動産市場はどうなっていますか?
7月の販売は13,930件・約348.8億ディルハム(約1.5兆円)で、金額は前月比6.9%増でした。件数・金額とも動き続けています。エリアごとの価格の濃淡については、7月27日の記事で詳しく整理しています。
Q4. 「戦争でも上がっているから今が買い時」と勧められました。
その説明は数字の半分です。上がっているのは主に産油国の収入と一部の業種で、ドバイの株価指数は直近1年で小幅マイナス。回復相場は和平の実現を織り込んでいるという分析もあり、和平が崩れれば前提ごと崩れます。急がされたときほど、出典つきの数字を確かめてください。
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「投資の現在地」は、ドバイ市場のいまを、煽らず・公開データで確かめる定点観測の枠です。
本記事について
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- 記事内容は2026年8月18日時点のものであり、最新性を保証するものではありません
- 中東情勢に関する記述は大手報道機関の報道に基づくものであり、状況は日々変化します
- 円換算は1ディルハム=約43円(1ドル=約159円・2026年8月時点)で計算した概算です
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